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日本人スタッフ不在のチームが作った「日本らしさ」。「Forza Horizon 6」文化アドバイザーが語る2年半の実務[CEDEC 2026]
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印刷2026/07/28 19:52

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日本人スタッフ不在のチームが作った「日本らしさ」。「Forza Horizon 6」文化アドバイザーが語る2年半の実務[CEDEC 2026]

 「Forza Horizon 6」が描く日本は,驚くほど現実の日本に近い。プレイヤーからは「若いころに夜中に車を走らせていたときの空気感を思い出した」「僕は東京には数回しか行ったことがないけど,まさにこんな感じ」といった感想が上がり,都心に住む配信者からは「実家に帰るときに運転する道みたいだ」という声も出た。

 だが,開発を手がけたPlayground Gamesはイギリスのスタジオである。同作で文化アドバイザーを務めた山下恭子氏が参加した時点では,「Forza Horizon 6」チームの約100名のなかに,日本人スタッフも日本語を話せるスタッフもいなかった。では,この高い再現度はどのように生まれたのか。

 CEDEC 2026のセッション「「日本らしさ」の作り方――Forza Horizon 6における文化監修の実践」では,開発チームと日本文化をつないだ山下氏の取り組みが紹介された。

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 山下氏は1997年に米国法人Square Soft, Inc.(現Square Enix, Inc.)へ入社し,「ファイナルファンタジーVII」から「XI」までのシリーズ作品や「キングダム ハーツ」など,30数タイトルのマーケティングとPRを担当した。「ファイナルファンタジー」初の海外オーケストラコンサートをプロデュースしたのち,2004年にXSEED Games(現Marvelous USA, Inc.)を共同設立している。

 2006年の独立後は,日本と海外をつなぐビジネス・クリエイティブコンサルタント,通訳,プロデューサーとして活動。近年はEnhanceでパブリッシング業務全般を担っていた。

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 「Forza Horizon」シリーズは2012年の第1作以降,アメリカ・コロラド州,南フランスと北イタリア,オーストラリア,イギリス,メキシコと舞台を移してきた。第6作で初めて日本が選ばれ,海外のプレイヤーからは,「日本を訪れたい」という願いと「好きな車で日本の道を走りたい」という夢を同時にかなえる作品として,大きな期待が寄せられていた。

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 山下氏は,過去作における文化アドバイザーの必要性について,開発チームのコメントを紹介した。オーストラリアを舞台にした「3」では現地出身のメインライターが知識を補い,イギリスを描いた「4」では,開発チーム自身の経験を活用できたという。

 一方,メキシコを舞台にした「5」では,文化面の専門知識が必要だと判断し,正式にコンサルタントを迎えた。シリーズを重ねるなかで,車とレースを中心としていた初期作から体験の幅が広がり,ストーリーやキャラクター,ゲームワールドにも土地固有の文化を取り込むようになったためだ。

 山下氏が採用面接に近い形でビデオ会議を重ねた際,チームから伝えられたのが,「メキシコで学んだのは,なるべく早い段階から文化アドバイザーを入れることだ」という言葉だった。


文化アドバイザーという仕事


 山下氏が「文化アドバイザー」という肩書でプロジェクトに参加したのは,今回が初めてだった。ただし,これまでも日本企業の海外進出や,海外企業の日本展開を支援し,現地の社会規範や習慣,ビジネスマナー,価値観を伝えることで,文化的な誤解を防いできた。

 名称こそ異なるものの,長年培ってきた経験は,文化アドバイザーの役割と重なる。

 今回の起用では,山下氏自身が長年の車好きだったことも大きかった。若いころはその趣味を周囲に明かしていなかったが,ある時期から少しずつ公言するようになったという。

 それを知るTurn 10 Studiosの友人が,約3年前にPlayground Gamesへ紹介した。長年の趣味と仕事が結びつくとは思っていなかった一方,世界中にファンを持つシリーズで日本文化を伝える役割には,大きなプレッシャーも感じたと振り返った。

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 文化アドバイザーは何を担うのか。山下氏は,ゲームや映画,書籍,演劇などで扱う文化・民族・コミュニティが,正確かつ敬意をもって描かれているかを監修する役割だと説明した。

 世界観やキャラクター,シナリオを検証し,史実や文化を尊重した翻案になっているかを確かめるほか,ステレオタイプや誤った描写を早い段階で指摘する。

 重要になるのが,文化をどこまで翻案するかという判断だ。フィクションでは,物語やゲームプレイに合わせ,実在の儀式を簡略化したり,神話の人物に新たな設定を加えたりする場合がある。

 ただし,伝承の本質を歪めたり,文化的に重要な要素を軽視したりすれば,当事者を傷つけ,誤った認識を広めかねない。面白さのために変えて良い部分と,守るべき部分を見極めることも,文化アドバイザーの仕事だという。

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 混同されやすいローカライズとの違いについても整理が示された。山下氏によれば,大きな違いは「関わる工程の範囲」「役割の性質」の2点にある。

 ローカライズは,完成済みまたは制作途中のコンテンツを対象市場向けに翻訳・調整する作業が中心で,多くの場合,開発の途中から,あるいは開発と並行して進められる。対して文化アドバイザーは,作る内容そのものに関わり,その内容に問題がないかを開発チームと話し合いながら決めていく。

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 結果として山下氏が関与した範囲は広い。ビジュアルを担うアートチーム全般,ゲームデザインチーム,サウンドチーム,シナリオ,さらにゲーム内に存在する日本のラジオ局のDJパーソナリティのオーディションまでが対象となった。


日本人スタッフ不在の開発チームへ


 プロジェクトへの参加が決まると,山下氏は,まず開発チームが日本をどの程度理解しているのかを把握するため,イギリスのPlayground Gamesを訪れた。チーム内で日本を訪れた経験があるメンバーは,5名程度にとどまっていた。

 しかも渡英前に伝えられていた依頼は「初日の午前中は日本の紹介セッションから始めるので何か用意してきてほしい」「いくつかこういうトピックをカバーしてほしい」という程度で,細かい指示はなかった。

 今後2年から2年半にわたって協働する以上,最初にチームの信頼を得る必要がある。そう考えた山下氏は,日本の基礎情報をまとめた資料と,日本を舞台にしたHorizonで論点になりそうなトピックのリストを準備した。

 用意したのは「こんにちは,私は○○です」から始まり,イギリスと日本の国土面積や人口の比較,主要都市の人口密度といった統計,8つの地方と47都道府県,宗教などの基本情報である。

 スタジオでは金曜の午後に日本文化を学ぶ会が定期的に開かれ,漫画のワークショップやアニメ・映画の鑑賞が行われていると聞いていた。そのため,日本語の文字体系であるひらがな,カタカナ,漢字や,敬語の段階についても説明に盛り込んだ。

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 初日は「Forza Horizon 6」とFableの両チームから約110名がTeamsで参加し,山下氏が日本文化を紹介した。アイスブレイクもないまま始まり,「この方向性でいいのか」という不安があったと振り返る。

 その後は,ゲームデザイン,アート,サウンドなどのチームごとに議論を実施。設計上の疑問や,日本文化・車文化について掘り下げたいテーマが次々に挙がり,YouTubeの映像も参照しながら意見を交わしたという。

 項目には「海外の人は日本のどういうところを誤解しているか」「避けるべきステレオタイプ」「日本特有だと気づいていない点」といった問いが並び,「アメリカン・ドリーム」に対して「ジャパニーズ・ドリーム」とはどのようなものか,という問いまで含まれていた。

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 山下氏はその後,1週間にわたってスタジオに滞在し,各チームの方針やリーダーの仕事の進め方を把握していった。メンバーとは早い段階で打ち解け,ランチでは車やモータースポーツの話で盛り上がったという。

 ロサンゼルスへ戻る前,スタジオのトップにだけ念を押して伝えたことがある。リードのメンバーを連れて絶対に日本に行くべきだ。行かなければ,どこかに必ずクオリティの差が出る――確信を持ってそう伝えたが,最初の反応は「スケジュール的に可能かどうか分からない」という程度だった。

 ところが約3週間後には,日本へ行くことを前提にスタッフのスケジュールを調整しているため,プランニングを手伝ってほしいという返答が届いた。

 こうしたやりとりを経て,チームが目指す「日本らしさ」は3点に整理された。生活感のある世界であること。日本を深く知る人が見ても違和感のない雰囲気であること。そして,「Forza Horizon」らしいオープンワールドの楽しさを備えることだ。

 山下氏によれば,チームが描こうとしたのは,美しいランドマークを並べた観光地ではなく,人々の暮らしが感じられる日本だった。「懐かしい」「少し驚く」といった,日常に潜む感覚まで再現することを目指したという。

 同時に,現実には走れない道や巨大なロボットとのレースといった,Horizonらしいダイナミックな遊びも用意される。実際に日本へ行く機会があるプレイヤーはごく一部だからこそ,自分たちはファンタジーを届けているのだと山下氏は語った。象徴的な例として挙げたのが,夜間は通常入れない金閣寺の門をくぐり,車を近くまで乗り付けられるという体験だ。

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四季から地名まで――現場で決め続けた無数の判断


 数か月後,Playground Gamesの主要メンバー8名と山下氏によるリサーチトリップが実施された。参加者はゲームデザイン,車,アート,背景,オーディオ,プロデュースなどを担当し,東京とその周辺を視察。観光ではなく,各分野の制作に生かせる発見を持ち帰ることが目的だった。

 訪れたのは,渋谷,原宿,秋葉原,浅草,銀座,新宿,横浜,上野,鎌倉,箱根である。観光地としての東京だけではなく,住宅街や海岸沿いを走り,徒歩で移動する感覚まで含めて体験してもらうために,この組み合わせにしたという。

 食については,和食,洋食,和朝食,喫茶,カフェ,デパ地下,コンビニと一通り体験し,料理そのものだけではなく,食にまつわるマナーも食べながら説明した。歩きながら食べるのは基本的にマナーが良くないといった暗黙のルールは,現地で体験しなければ気づきにくい部分である。

 車については,大黒パーキングエリアや車好きが集まるカーミートを可能な限り見て回った。彼らが想像していたよりずっと静かで落ち着いた雰囲気が印象的だったようで,大声で騒ぐ場面もなく,オーナーの年齢層が若者から年配まで幅広いことにも驚いたという。

 箱根では実際にドライブを体験し,タクシーや電車,新幹線にも乗って,時間が許す限り乗り物も体験してもらった。時期は6月半ばで,梅雨や梅雨明けといった季節感,ファッション,買い物も対象になった。

 買い物は薬局からデパート,路面店,文房具店,書店まで含み,看板や広告,値札,使われているフォントまでじっくり見る時間を取った。

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 現地調査では,多くの発見があった。2日目の夕食時,あるメンバーが「整然とした混沌の中に驚くべき静けさがある」とつぶやき,全員が同意したという。スライドでは,この印象を「秩序ある混沌(Organized / orderly chaos)」と表現していた。

 たとえば渋谷のスクランブル交差点では,人々がばらばらに歩いているように見えても,暗黙のマナーによって衝突が避けられている。資料だけでは得にくいこうした感覚が,人の動きや音の表現に影響したと山下氏は見ている。

 車まわりの観察も具体的だ。車やトラックが非常にきれいで傷が少なく,清潔さがステータスの象徴のようであること。クラクションの使用が極めてまれであること。派手な色の広告トラックが音楽を流しながら頻繁に走ること。都内では路上駐車が目立つこと。ガソリンスタンドには,天井から給油ホースが下がるタイプがあること。1台から4台程度しか停められない小規模な駐車場が多数あること。

 そして大黒PAは車種が多様で出入りが絶えず,静かで落ち着いた雰囲気であり,スライドには「FH6の世界観にとても近い印象」と添えられていた。

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 なかでも山下氏が感心したのは,サウンド担当の観察量だった。駐車場の出入口で警備員が笛を吹いて誘導する音。料金所通過時に車内で鳴る決済音。街中の店舗前や街頭のスピーカーから音楽が流れ,時に重なり合うこと。ドアやエレベーターの音が,ゲームのUI効果音のように心地よくデザインされていること。

 神社のカラスの独特な鳴き声と,箱根で印象的だったウグイスの声。レコード店の人気とカセット文化の定着。そして大黒PAでは,周辺の高架道路によってエンジン音やバックファイアが反響し,独特の音響効果を生むことも挙げられた。

 ゲームデザインにつながる点としては,うちわやガチャポン,駅スタンプといった「集める」文化と,マスコットが至る所で商品化・広告に使われるキャラクター文化の強さが示された。

 駅スタンプとマスコットは,とくに印象的な発見として紹介された。駅スタンプはゲーム内のスタンプラリーにつながり,日本入りする前から駅スタンプ用のブックを買っていたスタッフもいたという。

 マスコットについては,パーキングエリアとサービスエリアの違いを見せるために立ち寄った海老名サービスエリアが決定打になった。チームは単なる休憩場だと思っていたが,実際にはショッピングモールのフードコートに土産物店が並ぶような規模で,マスコットのグッズが何十種類も並んでいた。

 チームは,日本では可愛いマスコットやキャラクターが身近な存在であることを実感したようだ。山下氏は,ゲーム内にマスコットを登場させる判断が,海老名サービスエリアでの体験につながっているのではないかと述べた。

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 トリップを終えると,山下氏とチームはAMA(Ask Me Anything)のフェーズに入った。コミュニケーションは週1回の定例ミーティングと,Teams上に立ち上げられた山下氏専用チャンネルで行われた。

 チャンネルは質問箱のような形で,スタッフが次々に新しいトピックを投稿していく。文字だけでは伝わらない場合は,定例前にベースとなる回答や例を送っておき,詳細はミーティングで話すという流れを取った。アートチームのメンバーが,自分の週にトピックがなくてもサウンドチームの議題を聞きに参加する場面も少なくなかったという。

 挙がったトピックは実に幅広い。ニックネームの体系,着物を着て運転する人はいるのかというコスチュームの質問,看板・広告における日本語と英語のバランスと使い分け。車のリバリーにことわざを使いたいという相談では,「猿も木から落ちる」はどうかという案も出た。

 ゆるキャラ候補としての食べ物ランキング,日本人がよく取るポーズをエモートにする案,出前・フードデリバリーサービスを配達ミッションにする案,日本の伝統文様をフェス会場のコンセプトに使う案なども挙がった。

 家紋や表札を住宅デザインへ取り入れる案,玄関の土間を「家の顔」として捉える視点,石塔と灯籠の違いと種類,神話や民話に登場する生き物,神社の境内,鶴の種類や季節まで,質問の粒度は細かい。

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 とくに多く議論されたのが四季で,山下氏の参加後,半年ほどは関連する話題が議題の大半を占めたという。

 「Forza Horizon 6」では,ゲーム内の季節が週1回のペースで移り変わる。アートディレクターのDon氏は,「日本の四季と,それにまつわる文化のエッセンスをHorizonらしく表現する」という方針を基本コンセプトに据えていた。

 議論の対象は,桜の種類と開花予想カレンダー,雪の種類,紅葉の種類,初夏・梅雨・残暑,二十四節気と七十二候,食文化,伝統行事,衣替えまで及んだ。

 季節が変わるたびに風景,農作物,草木,天候,その土地ならではの飾り付け,環境音,路面の状態までが作り込まれ,同じ道路を走ってもまったく違うドライブ体験になるという。

 山下氏は,日本において季節の変化は「DNAのようなもの」であり,過去作で十分に表現しきれなかった反省も踏まえて,このシステムが導入されたと説明した。

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 四季と深く結びつく祭りや風習も扱われた。山下氏は,日本の季節の風物詩が,自然の移り変わりと人々の営みが重なって生まれた情緒豊かな文化であることを伝えたが,この「情緒豊か」という言葉は直訳ではなかなか通じない。

 さまざまな例や動画を見せながら,四季それぞれの情景が視覚だけではなく,香りや音,肌で感じる空気感まで,五感すべてに訴えかけるものであることを説明したという。

 凧揚げ,こどもの日の鯉のぼり,灯籠流し,七夕といった風物詩に加え,日本三大祭りから地方の変わった行事や儀式までを紹介した。

 祭りの選定にあたっては,知名度,地域性,文化的な重要性,そして探索,ビジュアルインパクト,シナリオというゲームとの相性が判断軸になっている。

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 ショップ名と看板の制作では,まずチームが店舗のカテゴリーを挙げ,山下氏が複数の名称を提案した。権利確認で使用できない案もあるため,候補は多めに用意する必要があった。

 確認を通過した案からチームが響きの良い名称を選び,アート素材へ反映。山下氏は,完成した素材の文字バランスや色,街中での配置を確認した。

 たとえばカフェなら花やコーヒーカップのモチーフで成立するが,蕎麦店にオレンジやピンクの看板では違和感がある。山下氏が細かなガイダンスを行い,案を何度も練り直したという。

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 歴史的建造物とランドマークは,チーム側が用意した多数のリストから実装対象が決まっていった。この部分については,山下氏からの指示やガイダンスはほぼなく,素材としてはチームが非常にきれいに再現してきたと評価している。

 一方で問題になったのは破壊の可否だ。オープンワールドゲームでは多くのオブジェクトを破壊できるため,壊してはならない建造物や,車を接触させるべきではない対象を区別する必要があった。

 桜の木は倒してはいけない,といった一つ一つのグレーゾーンを決めるセッションが重ねられ,最終的に接触を避けるため,オブジェクトやブロックを配置する判断も行われた。

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 マップのエリア名,いわゆるリージョン名の決定にも,山下氏が関わった。大まかな地図を基に各地域の特徴を整理し,名称を検討していったという。

 当初は「平野」「山」「高原」といった一般名詞を使う案もあったが,英語では「Northern Plains」のような平板な表記になってしまう。そこで山下氏は,日本語らしい地名を付けることを提案し,47都道府県の名称の由来も紹介しながら案を練った。

 北,南,東などの方角を含む字はプレイヤーへのヒントにもなり,外国人にとって難しすぎず,発音しやすい名前にしたいという方針も共有された。

 スライドには,地形の説明,決定したエリア名,英字表記が左から並べられていた。ただし,東京シティの行では地形の説明欄に「(フィックス)」と記されている。

エリア名 英字表記
(フィックス) 東京シティ Tokyo City
雪山地帯:大きく岩がちな山々が連なる雪深い地域 外山 Sotoyama
高原地帯:谷や小さな丘が多いエリア 高城 Takashiro
北部平野:農作物が多く広がる,比較的小規模な平野エリア 北部 Hokubu
南部平野:川が流れる広大な平野エリア 南野 Minamino
東海岸:一部山がちな地形を含む,長く続く海岸線 伊東 Ito
低山地帯:L字型にカーブする小さな山々のエリア,密な森林が多い 島野山 Shimanoyama
南海岸:南部に位置し,草地が多く,大きくカーブする 南岸 Nangan
大谷 Ohtani

 なお「大谷」は,スライドでも地形の説明欄が「?」となっていた。山下氏は,名称の由来について「大谷翔平選手の人気が理由だったかもしれないが,自分も覚えていない」と苦笑した。

 最後のトピックはプレイヤーハウスだ。マップ上に8軒あり,購入すると自分の拠点として使える。このテーマでは,ゲームデザインチームとアートチームの両方との議論が続いた。

 アートチーム側の要望は,それぞれ絶対に違ったスタイルにしたい,被るのは避けたい,誰でも購入できそうな一軒家からドリームハウスまでをそろえたいというものだった。

 そこで山下氏はまず,日本の住まいにどういう種類があるのかという整理から始めた。開発チームは,雑誌や参考資料から外観を把握できても,住宅の種類や違いまでは判別できなかった。

 たとえば,日本語の「マンション」に相当する英語としてmansionを使うと,豪邸を意味するため,意図がまったく異なってしまう。民家や町屋,最近では空き家といった言葉が,外国人にも普通に使われるようになっている事情もある。

 8軒の名前を考える前に,まず伝統的な家屋として民家,町屋,合掌造り,現代の住宅として木造,鉄筋,コンクリート,共同住宅としてマンション,アパート,公団,そして空き家というカテゴリーを共有した。

 さらに運良く,リサーチトリップ中にあるメンバーがガレージハウスだけを紹介する雑誌を購入していたため,それを見ながら,どのような組み合わせで各ハウスをデザインするかを詰めていったという。

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 セッションの終盤,山下氏は2年半の取り組みを振り返った。チームが目指したのは,海外のプレイヤーにとってのバーチャル観光にとどまらず,日本を深く知る人にも意味のある作品にすることだった。その方針は最後まで揺らがず,目標は達成できたと考えているという。

 森に差し込む木漏れ日や,田舎道でふと目に入る一軒家,軽トラック,ガソリンスタンド,コンビニ,自動販売機。さらに,都内を走るタクシーや,店が立ち並ぶ狭い道を車で慎重に通り抜ける感覚まで,日常の細部として再現していった。木漏れ日という言葉自体も,説明が必要だったという。

 山下氏は,生活の気配を丁寧に描いたことが,プレイヤーを世界へ引き込み,日本らしさを際立たせたのではないかと述べた。ドライブへの没入感も高まり,単なるレースにとどまらず,走ること自体を楽しめる体験になったという。

 また,日本を訪れた経験のある開発者が少なかったからこそ,海外のプレイヤーに近い視点で,チーム自身が体験したい日本を形にできたのではないかと振り返った。

 そのうえで山下氏は,完璧な正解を一方的に示すのではなく,チームとの対話を通じて,日本文化への敬意と正確さのバランスを探ることが重要だったと述べた。

 何よりうれしかったのは,日本のプレイヤーから好意的な反応が寄せられたこと。それが最高の評価だったという。

 最後に山下氏は,このプロジェクトを通して,まだ訪れたことも,見たことも,感じ取れていない日本があると気づいたと話した。今後は,かねてからの夢である全国47都道府県の訪問に向けて動き出したいという。

 そして,「アメリカ生まれではあるが,日本人として生まれてよかったと,つくづく感じた」と述べ,セッションを締めくくった。

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