![]() |
505Gamesからリリースされた本作は,かつて「Cloudpunk」を手掛けたベルリンのデベロッパ・ION LANDSの最新作だ。リリース直後となる10月上旬現在は「雰囲気最高! ただ経営ゲーム部分はどうか」といった意見も多く,開発元はゲームバランスに関するアップデートを重ねている最中である。
ION LANDSが提示してみせた表向きの看板はこんな具合だ。「サイバーパンク都市での店舗経営と,ゆるやかな日常」──なるほど,現代の情報負荷に少し疲れたゲーム好きが,チルい雰囲気を味わいたくなりそうな「店構え」である。
![]() |
濡れたアスファルトにネオンが反射する路地裏でラーメンを売り,温室で作物を育て,ボートで釣りをし,ときには部屋を模様替えする。荒廃した都市の片隅で味わう,ささやかな自由。そんな「生活の虚構(フィクション)」を夢見た100万人以上の人々が,ウィッシュリストに名を連ねたことにも納得がいく。
![]() |
だが,この街・ニヴァリスへたどり着き,50000リムという借金ごとラーメン屋を押し付けられた瞬間,プレイヤーは気付くのだ。自分がいかなる「罠」に誘導されてしまったのかを。
はじめは一国一城の主になりたかった
──ラナロニ・オブストラクトス・ノワール。それが私の名前……ということになっている。
いやふざけちゃいない,マジな話だ。まあもちろん,それが本名ってわけでもない。雨とネオンの光に覆われた街ニヴァリス,その治安当局の目をごまかすために取得させられた観光用IDに,記された記号。
ただ,この階層化されたディストピアにおいて,よそ者の仮面を被るのは悪くない選択だ。観光客として振る舞えばこそ,CorpSec(企業警察)の監視をかいくぐり,街のあちこちへと足を伸ばせるのだから。
「食材の在庫が切れています。急いでください。何が在庫切れかは市場に向かいながら詳しくご説明します」
![]() |
意識に直接響く無機質な声の主は,オートマタ(AIエージェントのようなもの)のアヴァだ。彼女は極めて明晰かつネットにも強い相棒ではあるのだが,その平坦な口調の裏に,己を創り出した人という種族をどこか軽んじているかのような,皮肉めいたものを感じなくもない。
![]() |
彼女の指示に従い,私は仕入れに向かい,店を営業可能にすることにした。もっとも,ラーメン屋経営とはいっても,厨房で真面目に麺を茹で続ける必要などない。メニューを拡張し,酒を置き,雑多な食材を冷蔵庫に押し込めば,怪しげな「ヌードルバー」の一丁あがりである。
こんな私にも,かつて「一国一城の主」として店を切り盛りすることを夢見ていた頃があった。だがいつの間にか,この店はこの街で生きるための隠れ蓑であり,金を得るための手段であり,そして足枷にもなっていった。
![]() |
初めのうちは,たしかこんなプランがあった気がする。
「まずは少数精鋭のメニューで黒字化を達成し,客席や調理場のレイアウトを最適化して,従業員やロボを雇って商売を軌道に乗せよう」
![]() |
そんな「志」を胸に店舗と市場をせわしなく往復していたわけだが,ささやかな夢は早々に打ち砕かれることになる。
「ここの店長? 昨日のサービスについて文句があるんだけど」
「ブルックのワイン蔵に行って,オーナーと話せ」
「おっ,ウナギを扱う店のオーナーじゃないか。分かるか? 麺ってウナギみたいだろ?」
![]() |
店の常連,近所の住人,ホテルのマネージャー,前の店主の知り合いなどなど,面倒ごとを押し付けてくる人間がごまんといる。
「ちょっ,待ってくれ! まず食材だ! 食材を仕入れなきゃ,営業時間に間に合わない!」
チルくてコージーだとか,脱サラしてソバ屋で悠々自適なんてのとはほど遠い。溜まり切ったタスクの奔流に,私の扁桃体がサイレンを鳴らし続ける。時間が……時間が足りない。
![]() |
そう叫び声をあげたい気分……いや,実際に叫んでいたかもしれない。ともあれタスクに追われて街を疾走していると,さらにCorpSecのエージェント・テレシュコやら,食品衛生局やら,有象無象がどんどん追い打ちをかけてくる。ダメだ,のんきに新規メニューなんか増やしていたら,仕入れ品目の増加で市場を回り切れなくなる。
それならばと,店の切り盛りや仕入れをこなしてくれるマネージャーを雇ったところ,今度は在庫を無限に増やしてサイフを逼迫させる事態に。ああ……。
![]() |
と,主人公視点で「NN」の序盤を伝えてみたが,多くのプレイヤーはこんな感じになってしまうであろう。
さすが生き馬の目を抜くニヴァリス(?),経営シムとして真剣に取り組もうとすると,真面目な人ほど「ちょっと大変かも……」と思ってしまうかもしれない。
いや待て。だったらこっちもエゴを押し付けたっていいんじゃないか? と,少し不真面目な筆者は気付いたわけだ。
不真面目に生きて何が悪い?
──そう,「商売を繁盛させろ」「この件について頼む」といった圧に素直に従おうとするから大変なのだ。だから私は,店を「適当」に扱うことにした。
![]() |
仕入れに手間がかかるメニューはきれいさっぱり消去。材料が被っている少数のメニューと,ビールだけを並べる。仕入れも気が向いたときだけ。店の評価が下がろうが,客が文句を言おうが,最低限の黒字さえ維持できればよし,とした。もちろん爆買いクセのひどいマネージャーは解雇だ。
かくてこの店は「情熱を注ぐ夢」ではなく,私がこの街に居続けるための「手段」へと格下げされた。なんとも世知辛いじゃないか。
ついでに,タクシーや電車からぼんやり街を眺める時間も削る。ファストトラベルをガンガン使い,目的地へとひとっ飛びだ。
![]() |
![]() |
![]() |
なお,夜になると街の空気は一変する。「夜間外出禁止令」のアラートとともに,CorpSecのドローンが漂い,カメラの青い光が街路を舐める。
![]() |
これはあくまで店主仲間から聞いた話だが,この夜陰に乗じてライバル店の裏手に忍び込み,食材を盗んだり,機材を持ち逃げして売りさばいたりといった,ろくでもないシノギをしている不届きなヤツもいるらしい。もちろん,しくじってCorpSecに見つかればタダじゃ済まないはずだ。そんなスリルも,時間に追われる店主稼業のいいスパイスになる。まあ,あくまで聞いた話だが……。
![]() |
![]() |
そうやって昼は適当に店を流し,夜は闇に紛れ……いや部屋で大人しくしているうちに,この街はまったく別の表情を見せ始めた。
「また非効率な『立ち話』に時間を浪費するおつもりですか? ええ,まったくかまいませんが」
脳内からアヴァの呆れを含んだ声が聞こえたような気がするが,無視する。自分の足で路地を歩き回るうち,この街で起きていることがただのニュースではなく,「肌の感覚」へと変わっていった。
![]() |
![]() |
街のそこかしこに,ろくでもない過去や歪んだ欲望を抱えた人間どもが蠢いている。互いに利用し合い,足を引っ張り合いながら。
貧困層や債務者ばかりを狙う謎の連続殺人鬼「Aseptic」の不穏な噂。人身売買組織の意外な裏側。何より,私の脳内に居座るアヴァ自身にも秘密があった……。
![]() |
そして,何気ない人との関わりが心に影を落とすこともある。とあるボクサーの悩みを,それなりに真面目に考えて励ましてみたものの,その後の彼の表情はどこか暗かった。
![]() |
![]() |
「まあ,話を聞いてやっただけでもマシだろう」と思っていたのだが……。
翌朝,自室で何気なく開いたニュースペーパーに,スパルタカスの悲惨な死の様子がデカデカと報じられていた。言葉選びひとつで,誰かの運命を決めてしまうことだってある。
![]() |
この街では,誰も彼もがギリギリのところで踏みとどまっているのかもしれない。一歩踏み外せばすべてを呑み込む,冷たい深淵・ニヴァリス。もちろん私とて,その淵に立たされたひとりに過ぎないのだろう。
![]() |
そしていつか訪れる決断
また主人公の視点を借り,雰囲気を出しつつお伝えしてきたが,物語と経営が絡む部分はややこしくなりそうなので,ここからは普通にまとめていこう。
上では経営を「適当でもいい」と書いたが,完全に店を放置してよいのかといえば,そうでもない。クエストの進行に伴って,まだ足を踏み入れていない街区に向かう必要も出てくる。
新たなエリアへ行動範囲を広げるには,観光客としてあちこちの店を覗き,飲食しなくてはならない。大儲けはしなくてもいいが,見知らぬ店で使う小遣いに不足しない程度には稼ぐ必要がある。この生活感は少しうっとうしくもあるが,同時に「ニヴァリスで暮らしている」感覚を増幅してもくれる。
![]() |
もちろん,このままずっと「観光ビザで違法に稼ぐ店主」でいられるのかは分からない。ストーリーがさらに進み,連続殺人事件の真相やアヴァの過去,あるいはCorpSecとの対立が深まっていけば,莫大なカネが必要になり,いつかはビジネスの規模を拡大しなくてはならないのかもしれない。
だが,それはクエストの嵐が一段落してから,改めて考えればよさそうだ。
![]() |
さて,「Nivalis Nights」には,農業も,釣りも,部屋の模様替えだってある。だからといって,本作のプレイ感は本当に「生活シム」的だろうか?
![]() |
![]() |
20時間近くプレイした現状では,むしろ濃厚なシナリオにグイグイと引っ張られていく感覚のほうが強い。需要を予測し,人を雇って利益を生み,どんどん事業を拡大していく……といった経営シム的な楽しさにも期待していたのだが,怒濤の勢いで発生するクエストの合間に経営に没頭するには,なかなか強い意志が必要だった。
![]() |
![]() |
まあそのあたりのプレイ感は,今後のアップデートで変わりうるポイントでもある。最終的には「物語」と「経営」が両輪になることを期待したい。
筆者的には,フォトモードで「映える瞬間」を切り取っている時間もけっこう楽しくて,この記事にも何枚か使わせてもらった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
雨の降りしきる近未来都市で,怪しいラーメン店を営む。そんな本作の店構えに惹かれて集まったプレイヤーたちは見事に「一杯食わされた」のかもしれない。ラーメンだけに。
![]() |
![]() |
だが,この濡れ光る都市の匂いを嗅ぎ,100人以上もの住人たちが織りなすドラマを味わう舞台としても,本作は十二分に魅力的だった。この街に足を踏み入れたプレイヤーは,いつしか気付くはずだ。自分がこの街の住人のひとり,あるいは冷たい傍観者になっていることに──。
![]() |
![]() |


























































