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子どもの頃,クリスマスや正月頃になると,朝刊の折り込み広告にひときわ鮮やかなチラシが入っていたのをよく覚えている。
ファミコンやPCエンジンなどのソフトの箱絵が並び,子ども心に眩しく映ったものだ。人気ソフトはさほど定価と変わらない値段だったが,中には980円均一や1980円均一など,大きく値引きされたものもあって,目が離せない。何せ,貯めてきた小遣いでどれを買うべきなのか,しっかり見定めなければならないのだから。
1980年代の終わりから1990年代前半にかけてのことである。
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今回紹介する「ファミコンショップ大百科」は,そんなノスタルジーを喚起する一冊である。
レトロゲーム専門ニュースサイト「ファミコンのネタ!!」の管理人であるオロチ氏が,ブログやSNS,同人誌などで発表してきたファミコンショップについての研究をまとめたものとなっており,かなりの労作であることがうかがえる。
「ファミコンショップ大百科」
著者:オロチ
版元:三才ブックス
発行:2026年4月3日
価格:2420円(税込)
ISBN:978-4866734927
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ここでいうファミコンショップとは,ファミコン最初のソフトが発売された1983年から,スーパーファミコン最後のソフトが発売された2000年までの間にこれらの商品を取り扱ってきた店舗とのことで,本書では全国に遍く存在していた書店やレンタルビデオ店,デパートなどもまとめてファミコンショップとして扱われている。
圧倒されるのは,やはり第2章の「ファミコンショップ図鑑」だ。
百貨店のような分かりやすいものはもちろん,「ブルート」や「わんぱくこぞう」といった専門店まで網羅されている。ほかにも建物が特徴的だった「おもちゃのハローマック」の跡地が現在どうなっているかの一覧や,説明書に捺された店の印鑑のコレクションなんてものまで掲載されているから驚きだ。
とはいえ全体からすると,これでもごく一部なのだろう。町の小さなゲームショップ――例えば筆者が幼少期にディスクシステムの書き換えをした地元のおもちゃ屋「いとう」――などは載っていなかったので,この研究テーマの深淵が見てとれる。そうしたものの多くはすでに店を畳んでしまっているだろうから,無理もないわけだが。
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ただ,今なお頑張っているお店も少数ながら存在している。そうしたお店を訪ね,店主に往年の苦労を聞いたインタビューが,第3章「現役ファミコンショップ訪問記」には多く掲載されている。
その内容はどれもハートウォーミングなもので,メーカーや問屋の都合に翻弄されながらも,子どもたちやゲーム好きにとっての避難場所であり続けようとした,ショップ側の気概が伝わってくるようである。
今はこうした実店舗にお世話になる機会も,めっきり減ってしまった。発売日にゲームが入手できないなんてことはなく,ダウンロード版なら日が変わった瞬間からプレイできてしまう。ゲームソフトの値段も,当時と比べてそう変わっていない(開発費は高騰しているにもかかわらず!)。
思えば,筆者が「ドラゴンクエストIII」を入手できたのは,発売から半年が経ってからだった。「ドラゴンクエストIV」も3か月後だったし,発売日からプレイできたのは「Sa・Ga2 秘宝伝説」だけだった気がする。
中古ソフト屋にもお世話になった。とくに安かったのが先のブルートで,誇らしげに一本指を立てたマスコットキャラがあしらわれたソフトケースが印象深かったが,いつの間にか店は消えてしまっていた。
よくある地方の風景だが,第1章「ファミコンショップ栄枯盛衰史」を読めば,なぜこうしたことが起こっていたのかの背景が理解できる。
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まず当時の任天堂は,ファミコン関連商品を「初心会」と呼ばれる一次問屋にしか卸さなかった。花札やトランプを卸していた頃の苦しい時代に,支えてくれた恩義があったからである。
ファミコンソフトの流通を一手に引き受ける初心会は,メーカー側の在庫リスクを引き受けると同時に,全国の二次問屋,三次問屋を配下としたピラミッド型の強固な販売網を築き上げた。しかしそれは,在庫リスクを下へ下へと押しつける,構造的な問題をも孕んでいたのである。
その結果として生じたのが,消費者にしわ寄せがいく過激な抱き合わせ販売である。ドラクエのような人気商品は,不人気なソフト数本と一緒でないと売ってもらえない(のちに公正取引委員会により規制される)。
おまけに小売店も,問屋を挟むたびにマージンが抜かれ,利ざやが小さくなってしまう。ならば中古ソフトを扱ったほうがよほど儲かるではないか。
こうした状況を背景に,かくしてファミコンショップは産声を上げた。
ほかにも昔は旅館なんかによく置いてあった業務用ファミコン(ファミコンは業務利用を禁じていた)や海賊版の問題,ROMカセットの容量増加に追い抜かれてしまったディスクシステムなどなど,さまざまな出来事を経ながらも,ブームの爛熟とともに,ショップは津々浦々へと広がっていったのである。
加えて1991年末には,良くも悪くも閉鎖的だった日本の業界慣習を無視して,アメリカ発の黒船・「トイザらス」が日本に上陸する。これにより百貨店間の値下げ競争が加熱し,対抗するためファミコンショップは業界団体JAGを結成する。
そして1994年,“次世代機”こと32ビット機の時代が訪れると,さらに状況は激変。CD-ROMによる価格破壊で小売店の利益率は改善するも,SCEは中古ソフトの売買を禁止し,これを巡ってJAGは真っ二つに分裂してしまう。
先のブルートは,早くから自前のPOSシステムを構築し,1996年には300店舗を数える大規模チェーンに躍進したものの,1998年,メーカー団体CESAらによる中古ソフト撲滅キャンペーンの煽りを受けて混乱。わずか半年で加盟店の約半数が離脱し,1999年に自己破産してしまった。ちなみに件の初心会も,1997年には解散している。
その後の行く末は,ぜひ本書を手にして確認してほしいが,著者のオロチ氏は経済紙や業界紙を精読し,当時の業界人以外には分かりづらかったメーカーや業界団体,ショップらの思惑を整理してみせる。
ゲーム産業史の死角にスポットライトを当てた重要な仕事なのは言うまでもないが,“戦国時代”さながらの諸行無常のドラマとしても興味深い。最初にカタログ部分を眺めたあと,じっくり腰を据えて第1章の「盛衰史」を読み込めば,あなたのゲーム観も少なからず刷新されるはずだ。
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■■岡和田 晃(翻訳家,文芸評論家)■■
SF・幻想文学やクラシックなスタイルのゲームにちなんだ翻訳紹介を得意とするライター・翻訳家。4Gamer連載の「ファイティング・ファンタジーとその時代」は,「主人公はキミだ! 〜You are the Hero!日本語版〜」(SBクリエイティブ)の別巻となった。また怪奇幻想小説の古典「銀のギターのジョンII〜罪は戸口に潜む」(アトリエサード)の編集・翻訳に参加。アンソロジー「ショートショートなSF」(ハヤカワ文庫JA)に小説「十四(カトルセ)」を寄稿している。


























